
オヤカクとは?企業が行う親への確認の実態と背景
近年、就職活動における学生の早期離職を防ぐため、「オヤカク」と呼ばれる企業による親への確認が注目されています。これは、内定を出した学生の親御さんに対し、入社承諾の意向や企業への理解を深めてもらうことを目的とした取り組みです。本記事では、企業がオヤカクを実施する背景やその具体的な内容、そして採用活動に与える影響について詳しく解説していきます。
オヤカクとは?
「オヤカク」という言葉を聞いたことがありますか?これは「親確認」を省略したもので、企業が内定を出した学生さんのご両親に対して、入社を承諾する意思があるかどうかを確かめることを意味します。企業側から会社の情報を提供したり、挨拶をしたり、内定承諾の意向を確認したりすることで、内定者が辞退してしまうのを防ぐための対策として行われています。広い意味では、ご両親に入社を最終的に決定してもらうことまで含む場合もあります。
出典:2022/12/7 .株式会社HR Doctor「オヤカクとは?学生の内定辞退を防ぐために企業が行なうべき対策」https://www.hr-doctor.com/news/recruit/new-recruit/newgrad_recruting_jitaiboshi-14
オヤカクの必要性が増している背景
最近、企業がオヤカクを行う必要性が高まっているのは、以下のような理由が考えられます。
親子の関係性の変化
現代の親子関係は、以前よりもずっと親密になっていると言われています。まるで友達のように何でも話し合える親子が増えており、学生さんが内定についてご両親に相談するケースが多くなっています。そのため、ご両親の考えが内定辞退に大きく影響するようになっているのです。少子化で一人っ子が増え、親御さんがお子さんの将来に強い関心を持つことも、この傾向を後押ししています。学生さんにとって親は一番身近な社会人であり、気軽に相談できる存在なので、親の意見を参考にすることが多いのです。
売り手市場による内定辞退率の上昇
人手不足が続いているため、学生さんは有利な状況で就職活動を進められています。その結果、内定を複数もらう学生さんが増えています。ある調査によると、2023年卒の新入社員の内定辞退率は65%にも達しており、この割合は年々増加傾向にあります。複数の内定を得た学生さんが、最終的にどの会社に入社するかを決める際に、親御さんの意見を重視する傾向が強まっています。内定辞退率が高くなると、企業は採用活動にかけてきた時間や労力、費用が無駄になるだけでなく、採用計画を立てること自体が難しくなり、必要な人材を確保できなくなるという問題が生じます。
出典:マイナビ「2023年度就職活動に対する保護者の意識調査」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240213_69413/
学生の安定志向の高まり
学生の親世代が厳しい経済状況を経験した影響で、安定を求める傾向が強まっています。ある調査では、親が子供の就職先に求める条件として「経営の安定性」が最も多く、学生自身も企業選びで「安定した会社」を重視する傾向が顕著です。
ブラック企業問題の深刻化
過酷な労働環境や過労死に関するニュースが増え、親は子供が安心して働ける企業への就職を願っています。国が働きやすい企業を認定する制度を進めるなど、求職者はより良い労働環境を求めるようになっています。親は、子供が劣悪な環境で体調を崩したり、過労死する事態を深く心配しており、企業は働きやすさを積極的にアピールする必要があります。
オヤカクの現状
ある調査によると、半数近くの親が企業からオヤカクを受けたと答えています。この結果は、オヤカクが企業の人事戦略において重要な役割を果たしていることを示唆しています。多くの大学が親向けの就職セミナーを開催しており、教育に関心の高い親ほど子供の就職活動に積極的です。合同説明会に親が参加する事例も増加しており、企業によっては親専用のスペースを用意しています。
学生も親の意見を重視し、企業や職種選びで親の意見を参考にする割合は、女子学生で約5割、男子学生で約4割に達します。就職活動の相談相手として最も多いのは母親で、次いで父親であり、親に相談するケースが多いことがわかります。
ただし、親と子で就職先に対する考え方が異なる場合もあります。親は企業の安定性や将来性を重視する一方、学生は職場の雰囲気や人間関係を重視する傾向があります。
出典:マイナビ「2023年度就職活動に対する保護者の意識調査」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240213_69413/
オヤカク対策の具体例
企業がオヤカクを実施するにあたっては、次のような対策が考えられます。
企業のウェブサイト・採用ページの強化
会社のウェブサイトや採用情報を掲載するページを新しくしたり、内容を充実させたりすることで、企業の考え方、仕事の内容、社員の紹介、待遇などを詳しく伝え、透明性を高め、ご家族の心配を減らすことができます。スマートフォンで見やすいウェブサイトを作成し、求職者だけでなくそのご家族にも情報が伝わりやすいように工夫することが大切です。もし会社のウェブサイトがない場合、内定者のご両親やご家族から信頼を得られない可能性があります。ウェブサイトの質が低い場合も、同様に不信感を抱かれる可能性があります。
会社案内・採用案内の郵送
会社を紹介するパンフレットや採用に関するパンフレットを作成し、ご両親に郵送することで、会社への理解を深めてもらい、安心感を与えることができます。パンフレットには、会社の強みや将来性、社員からのメッセージなどを掲載し、会社の魅力を効果的に伝えることが重要です。転職の際に見られる「嫁ブロック」や「旦那ブロック」による内定辞退を防ぐためにも、会社側からの情報提供は非常に有効です。
説明会・懇親会へのご招待
内定者懇親会や会社見学にご両親を招待することで、会社の雰囲気や社員の様子を直接見ていただき、安心感を与えることができます。会社によっては、社長や採用担当者がご両親に直接電話をかけたり、ご家庭を訪問したりすることもあります。地方を回って内定者のご両親を訪問する社長もいます。内定後すぐに会社見学に保護者を招待する企業もあります。
積極的な情報開示
会社の財務状況や今後の事業計画などを積極的に開示することで、会社の安定性や成長性を示し、ご両親の不安を解消します。会社が安心して働ける場所であることを示すために、ホワイトマークやホワイト企業認定などを取得し、積極的にアピールすることも効果的です。内定者への丁寧な聞き取りと情報提供
内定者のご両親が抱える懸念やご要望を把握するため、内定者本人へのヒアリングを丁寧に行い、それに応じた情報提供を行うことで、内定辞退を抑制することが期待できます。ご両親が抱いている不安や誤解を理解した上で、それらを解消するための情報を内定者に伝え、ご両親への理解を促してもらうことが効果的です。
オヤカク実施時の留意点
オヤカクを円滑に進めるためには、以下の点に留意することが不可欠です。
誠意ある対応
ご両親に対し、誠実な姿勢で接し、分かりやすく丁寧な説明を心がけることが大切です。ご両親からの質問や不安に対して、真摯に向き合い、誠実に回答することで、信頼関係を構築し、企業への理解を深めていただくことができます。
学生の意思の尊重
オヤカクは、あくまで内定辞退を防ぐためのサポートであり、最も重要なのは学生本人の意思を尊重することです。ご両親の意見に過度に影響されることなく、学生自身の主体的な意思決定を支援することが重要です。
情報提供のタイミング
「オヤカク」は、実施時期が早すぎても遅すぎても、期待される効果を得られないことがあります。内定を決定する前に、学生の志望状況が定まっていない段階で行うのは、必ずしも適切とは言えません。最終面接の前など、内定を出すことをほぼ決めた段階で「オヤカク」の実施を検討するのが理想的でしょう。
「オヤカク」における問題事例
「オヤカク」を適切に行わないと、以下のような問題が生じる可能性があります。
親御様が企業に対して不信感を持っている
親御様が企業に対して良くない印象を抱いている場合、お子様の入社に反対する事態も考えられます。このような場合、企業は「オヤカク」を通じて企業の魅力を伝え、親御様の不安を解消し、企業イメージの向上に努める必要があります。
企業の認知度が低い
中小企業や地方に拠点を置く企業の場合、親御様が企業名を知らないために、入社に対して不安を感じる場合があります。企業は、事業内容や実績などを分かりやすく説明し、親御様からの信頼を得ることが重要です。
上京や寮生活への懸念
お子様が故郷を離れることに対して、親御様が不安を感じられる場合があります。企業側は、上京や寮生活が業務上不可欠である理由に加え、会社として提供できるサポート体制について丁寧に説明することが重要です。
経済状況への心配
企業の経営状態を憂慮された親御様が、入社を思いとどまらせるケースも見受けられます。企業の現状の財務状況、将来的な事業計画について、根拠となるデータを示しながら説明し、安心感を与えることが求められます。
「オヤカクなし=非常識」という認識
オヤカクが広く認知されるようになった昨今、オヤカクを実施しない企業は非常識であるとみなされ、内定辞退につながる可能性も否定できません。採用活動の一環として、積極的にオヤカクに取り組む必要があるでしょう。
まとめ
オヤカクは、企業が内定辞退を抑制し、優秀な人材を獲得するための有効な手段です。親御様の意向を尊重し、必要な情報を提供することで、内定者の入社意欲向上を促し、企業と内定者、そしてそのご家族との良好な関係を構築することが可能になります。オヤカクへの対策は、内定辞退の防止に留まらず、入社後のトラブル回避や、従業員の定着率向上にも貢献します。また、社員が転職を検討し始めた際、親御様が企業側の理解者となることで、離職を防ぐ効果も期待できます。
よくある質問
質問1:オヤカクは法的に問題ないのでしょうか?
回答:オヤカクという行為そのものは、法律で禁止されているわけではありません。ただし、個人情報保護法を遵守し、必ず学生本人の承諾を得てから、保護者の方に連絡を取る必要があります。また、保護者への確認を強く求めたり、保護者の意見を尊重しすぎたりすることは、学生自身の自主的な判断を尊重するという点で望ましくありません。
質問2:中小企業でもオヤカクは実施すべきでしょうか?
回答:中小企業こそ、オヤカクの重要性は高いと言えます。大手企業と比較して企業認知度が低い場合、保護者の方から不安視されることがあります。企業の事業内容や将来性、社員が働く環境などを詳細に伝え、保護者の不安を軽減することで、内定辞退を防ぐ効果が期待できます。また、中小企業は大手企業の内定を得るまでの選択肢の一つと捉えられがちであるため、オヤカクを通じて入社への意欲を高めることが大切です。
質問3:オヤカクはどのタイミングで始めるのが最も効果的ですか?
回答:オヤカクは、内定を出すと決定した時点から開始するのが最も効果的です。具体的には、最終面接の少し前あたりが良いでしょう。時期が早すぎると学生の入社意欲が十分に高まっていないため、期待する効果が得られない可能性があります。逆に、開始時期が遅すぎると、保護者の説得が間に合わないことも考えられます。


