
有給休暇の賃金は6割でも良い? 3つの計算方法と注意点を徹底解説
「有給を取ると給料が減る」そんなイメージをお持ちではありませんか?実は、有給休暇中の賃金は、必ずしも満額支給されるとは限りません。労働基準法では、有給休暇中の賃金について、いくつかの計算方法が認められており、その中に6割の支給でも適法となるケースが存在します。この記事では、有給休暇の賃金計算方法を3つご紹介し、それぞれの計算方法や、企業が注意すべき点について詳しく解説します。有給休暇を安心して取得するために、ぜひ参考にしてください。
有給休暇における賃金計算:基本
有給休暇を取得した際の給与計算については、労働基準法で定められた3つの計算方法が存在します。企業は、これらの方法の中から一つを選び、就業規則に明確に記載する必要があります。選択した計算方法は、従業員や有給取得日によって変更することは認められていません。常に一貫した方法で計算を行う必要があります。本記事では、3つの計算方法の詳細、各種手当の扱い、実務上の注意点、よくある質問について、わかりやすく解説します。
有給休暇の賃金計算:3つの選択肢の詳細
有給休暇中の給与計算方法として、労働基準法で認められているのは、以下の3つの方法です。
通常の賃金を支払う
平均賃金を支払う
標準報酬日額を支払う
企業は、これらの方法の中から一つを選択し、就業規則に明記する必要があります。どの計算方法を選ぶかは会社の判断に任されていますが、一度決定した方法を容易に変更することはできません。
出典:e-Gov 法令検索.労働基準法(第39条9項)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-Ch_4-At_39
通常の賃金を支払う場合:詳細
ここでいう「通常の賃金」とは、「通常の労働時間で勤務した場合に支払われる通常の給与」を意味します。この方法のメリットは、計算が非常に簡単であることです。また、従業員にとっても、有給休暇を取得しても給与が減額されないため、安心して有給休暇を取得できるという利点があります。
計算式
月給制の場合:月給÷月の所定労働日数
時給制の場合:時給×所定労働時間数
日給制の場合:日給額
週給制の場合:週給÷週の所定労働日数
出来高払制の場合:賃金計算期間の賃金総額÷計算期間中の総労働時間数×計算期間中の1日の平均所定労働時間数
月給制や週給制の場合、実務上は「通常通り勤務したものとみなし欠勤控除を行わない」という取り扱いをするのが一般的です。
出典:e-Gov 法令検索.労働基準法施行規則(第25条)https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000100023#Mp-At_25
月給制のケース
月給制の場合、通常通り出勤したものとみなし、欠勤控除を行う必要がないため、特に計算作業は発生しません。
日給制・時給制の場合
日給制や時給制の場合、有給休暇取得日の給与は、その日の日給または所定労働時間に基づき、本来労働すべきであった時間分の賃金として計算されます。しかし、時給制のパートタイマーやアルバイトなどの場合、所定労働時間が長い日に有給休暇の取得が集中しやすいという課題があります。アルバイト・パート社員で勤務時間が一定でない場合は、その日に予定されていたシフトの時間数に基づいて計算するからです。
企業側の視点で見ると、有給休暇の取得によって、従業員に支払う賃金の総額が大きく変わらないという側面も考慮すべき点と言えるでしょう。
平均賃金による支払い:詳細と事例
ここで言う「平均賃金」とは、過去3ヶ月間に従業員に支払った賃金総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額を指します。この「過去3ヶ月」は、賃金の締め日がある場合は、直近の締め日から遡って3ヶ月間、日払いや週払いの場合は、直近の支払い日から遡って3ヶ月間を意味します。
計算式
原則:過去3ヶ月の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月の暦日数
最低保証:(過去3ヶ月の賃金総額 ÷ 過去3ヶ月の労働日数)× 60%
暦日数に対して、休日や欠勤が多い場合、計算結果として算出される金額が低くなることがあります。そのため、上記の計算式で算出した金額と、最低保証額(賃金総額を労働日数で割った額の60%)を比較し、いずれか高い金額を平均賃金とするという制度が設けられています。企業側にとっては、労働日数が少ない場合に支払額を抑えられる利点がある一方、最低保証額の計算が必要となるため、事務処理が複雑になるというデメリットも存在します。有給休暇を取得するたびに平均賃金を計算する必要があるため、計算に手間がかかる点も考慮が必要です。
出典:e-Gov 法令検索.労働基準法(第12条)
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-Ch_1-At_12
平均賃金の計算ステップ
1. 賃金総額の算出:有給休暇を取得した日より前の3ヶ月間に支払われた賃金の総額を計算します(通勤手当や残業代なども含みます)。
2. 総暦日数の算出:上記の期間における総暦日数を計算します(休日や祝日も日数に含みます)。
3. 平均賃金の計算:賃金総額を総暦日数で割って、平均賃金を算出します。
4. 最低保証額の計算:賃金総額を総労働日数で割った金額の60%に相当する金額を計算します。
5. 比較と決定:算出した平均賃金と最低保証額を比較し、金額が高い方を実際に支払う金額として決定します。
具体例
有給取得開始日前の直近3ヶ月間の給与総額(社会保険料等を控除する前の金額)=30万円
上記期間の総日数(8月、9月、10月)=92日
上記期間の出勤日数=50日
平均賃金=30万円÷92日=約3261円
※最低保障額=30万円÷50日×60%=約3600円
1日あたりの有給休暇手当=3600円(最低保障額が平均賃金を上回るため)
休日や欠勤が多い場合、平均金額が低くなりますが、最低保障額によって少しはカバーできることもあります。
標準報酬日額による支払い:詳細
標準報酬日額とは、健康保険料を算出する基準となる標準報酬月額を30で割った金額です。標準報酬月額には上限額が設定されており、実際の給与よりも低くなる場合があるため、標準報酬日額を適用するには、労使間での合意(労使協定)が不可欠です(労働基準監督署への届け出は不要)。計算自体は比較的容易ですが、労働時間が短いパートタイマーやアルバイト従業員は健康保険に加入していないケースも多いため、適用できない場合があります。そのため、実務においては「通常の賃金」や「平均賃金」と比較して、採用される割合は低い傾向にあります。
計算式
標準報酬日額=標準報酬月額÷30日
有給休暇の賃金計算における各種手当の取り扱い
「平均賃金」や「標準報酬日額」を基準とする場合は、実際に支払われた金額が基礎となりますが、「通常の賃金」を基準とする場合、各種手当を含めるかどうかが問題となります。
有給休暇中の賃金計算において、手当をどのように扱うかについて、労働基準法には明確な規定は存在しません。しかしながら、労働基準法第附則136条には、「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」という定めがあります。
会社側の裁量が認められる範囲は大きいですが、将来的な労使間トラブルを避けるため、就業規則に明確に記載しておくことが重要です。
通勤手当
月給制で定期代として一律支給されている通勤手当については、有給休暇の取得を理由とした賃金からの控除は適切ではありません。すでに定期代などの通勤手当が支給されている状況で、有給休暇取得日数分の金額を賃金から差し引くことは、「不利益な取り扱い」と判断される可能性があります。一方、実費精算方式で支給されている通勤手当については、実際に通勤していない場合は支給する必要はありません。
家族手当・住居手当
家族構成や居住状況に応じて支給される家族手当や住居手当は、出勤状況に左右されず、従業員の個人的な状況に基づいて支払われるものです。これらの手当を差し引いて有給休暇中の賃金を計算すると、従業員にとって不利になる可能性があるため、有給休暇の賃金に含めて計算するのが適切と考えられます。
皆勤手当
出勤率に応じて支給される皆勤手当について、有給休暇の取得を理由に支給対象から外すことは認められるのでしょうか。過去の裁判例では、手当の金額と従業員が被る不利益の程度を考慮して、個別に判断が分かれています。労働基準法39条、136条の精神に鑑みれば、原則として賃金から控除しないのが安全策と言えるでしょう。
深夜手当
深夜手当は、午後10時から午前5時までの間に労働した従業員に支払われる割増賃金です。日常的に残業があり深夜労働が発生している場合でも、有給休暇取得日は実際に勤務していないため、原則として深夜手当(割増賃金)を支払う必要はありません。ただし、当初から所定労働時間が深夜帯に及んでいる場合は、通常の勤務と同様に扱い、深夜手当を含めて計算するのが適切です。
有給休暇取得時の給与計算で起こりやすい誤りとその対策
有給休暇取得時の給与計算においては、以下のような誤りが生じやすい傾向があります。
計算方法の勘違い
手当を含めずに計算
労働日数を誤ってカウント
社内規則との矛盾
これらの誤りを未然に防ぐためには、正しい計算方法を再度確認し、手当の扱いを明確にし、労働日数を正確に把握し、社内規則との整合性を確認することが不可欠です。
万が一、給与額を誤ってしまった場合は、すみやかに従業員に謝罪し、不足額を支払う必要があります。さらに、同様の事態の再発を防止するために、計算方法の見直しやチェック体制の強化といった対策を講じることが望ましいでしょう。
有給休暇の賃金計算、システム化で効率アップ
有給休暇中の賃金計算方法は、会社の就業規則に明記されている必要があり、安易に変更することはできません。特に「平均賃金」を基準とする場合、計算が煩雑になりがちです。そこで、勤怠管理システムを活用することで、計算業務を効率化することが推奨されます。「平均賃金」以外の方法を採用する場合でも、システム上で各種手当の設定や有給取得状況の一元管理が可能になるため、非常に有効です。
まとめ
有給休暇における賃金計算は、従業員の権利を保護する上で極めて重要な業務です。この記事でご紹介した3つの計算方法、手当に関する取り扱い、注意点などを参考に、正確な給与計算を心がけましょう。さらに、勤怠管理システムを導入することで、有給休暇の管理と計算をより効率的かつ正確に行うことができます。
よくある質問
質問1:有給休暇日に、もし残業があった場合の賃金は支払われるのでしょうか?
回答:いいえ。有給休暇中は労働義務が発生しないため、仮に予定されていた残業時間があったとしても、その分の賃金を支払う必要はありません。
質問2:パートタイム労働者の有給休暇賃金も、正社員と同様に計算すべきですか?
回答:就業規則に定める有給休暇賃金の計算方法が正社員と同じならば、パートタイム労働者に対しても正社員と同様に賃金を計算する必要があります。ただし、勤務形態や給与体系に応じて、最適な計算方法を選択することが可能です。
質問3:有給休暇中の給与計算方法を、途中で変えることは許されますか?
回答:労働契約法第9条により、労働者の合意なく有給休暇中の給与計算方法など(労働条件)を不利益変更することは禁じられています。ただし、労働契約法第10条で定める要件(労働者への周知、変更内容が合理的)を満たす場合、会社の就業規則を変更することにより、計算方法を変更することは可能です。





