
新卒採用戦略:変化を捉え、未来を拓く
新卒採用戦線は、今や企業と学生の双方が未来を左右する重要な局面です。早期化する採用活動、学生の価値観の多様化、そして内定辞退の増加といった課題が複雑に絡み合い、企業は従来の採用手法からの脱却を迫られています。本記事では、変化を捉え、未来を拓くための新卒採用戦略を徹底解説。最新トレンドを踏まえ、企業が持続的な成長を遂げるための羅針盤となる情報を提供します。
新卒採用市場の現状と課題
近年、新卒採用の環境は目まぐるしく変化しており、企業は従来の手法に固執せず、最新の採用トレンドを組み込んだ戦略を構築することが不可欠です。学生有利な市場、採用活動の早期化、内定辞退や早期離職の増加といった問題に対処するため、企業は常に最新情報を収集し、採用戦略を最適化していく必要があります。
学生優位の売り手市場
現在の新卒採用市場は、学生が有利な状況が続いています。2024年卒の大学生に対する求人倍率は1.71倍となっており、学生側の選択肢は豊富です。そのため、企業は自社の魅力を効果的に伝え、学生の関心を惹きつけるような採用活動を展開する必要があります。単に求人情報を公開するだけでは、優秀な人材の獲得は困難になっています。
特に中小企業は、大企業と比較して新卒採用において厳しい状況に置かれています。従業員規模別の求人倍率を見ると、300人未満の中小企業では6.19倍と高い数値を示しており、人材獲得競争の激しさが伺えます。
出典:2023.4.26.リクルートワークス研究所.第40回ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒).https://www.works-i.com/surveys/item/230426_kyujin.pdf
採用活動の早期化
新卒採用における重要なトレンドとして、採用活動の早期化が挙げられます。2024年3月1日時点で、大学生の就職内定率は40.3%と過去最高を記録しました*。企業側も早期から採用活動を開始し、優秀な学生との接点を増やすことが重要になっています。人材不足による売り手市場を考慮すると、採用の早期化はさらに進む可能性があります。学生の就職活動期間が長期化する傾向にあり、企業にとっては採用コストの増加も懸念されます。
出典:2024.3.1就職みらい研究所.就職プロセス調査(2025年卒)「2024年3月1日時点
内定状況」.https://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2024/03/naitei_25s-20240314.pdf
内定辞退と早期離職
新卒採用において、内定辞退の増加は深刻な問題です。学生優位の売り手市場においては、内定を複数獲得した学生が、熟慮の末に就職先を選ぶケースが増加しており、結果として内定辞退率の上昇を招いています。また、入社後の早期離職も大きな課題です。学生と企業のミスマッチを防ぎ、従業員の定着率を高めるための対策が求められています。
新卒入社後3年以内の離職率は約3割に達すると言われており、その要因の一つとして「入社前のイメージと実際の仕事内容とのギャップ」が考えられます。
新卒採用戦略の最新トレンド
時代の変化に即した、最新の新卒採用戦略の構築が不可欠です。従来の求人媒体だけに頼らない採用手法をご紹介するため、最新のトレンドを踏まえた戦略に関心のある方は、ぜひお読みください。
ハイブリッド型採用
2025年の新卒採用においては、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型採用が主流になると考えられています。特に、オンラインでの情報提供と、対面での最終面接の組み合わせが効果的です。場所にとらわれない採用活動を展開しつつ、対面で候補者の個性や適性を見極められるという利点があります。ハイブリッド型採用を有効活用することで、競合他社との差別化を図り、優秀な人材の獲得を有利に進めることが期待できます。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティングとは、企業が主体的に採用活動を展開する手法です。従来の採用活動では、求人サイトや人材紹介会社を利用し、応募を待つという受け身の姿勢が一般的でした。これに対し、ダイレクトリクルーティングでは、企業自らが候補者のデータベースを検索し、条件に合う人材にスカウトメッセージを送ったり、独自の採用イベントを企画・開催するなど、積極的に働きかける点が特徴です。候補者との接点を増やし、採用の成功率を高める上で有効な手段となるでしょう。
ダイレクトリクルーティングは、企業側からアプローチを行うため、採用ターゲットが明確であり、量より質を重視する戦略に適しています。候補者と真摯に向き合い、コミュニケーションを重ねる必要があり、企業の将来像や自社への熱意を伝える準備をすることで、ダイレクトリクルーティングを最大限に活用できるでしょう。
逆求人
逆求人はダイレクトリクルーティングの一形態ですが、いくつかの相違点があります。ダイレクトリクルーティングでは企業が学生にアプローチするのに対し、逆求人では学生が自身の強みやスキルをアピールし、企業からのアプローチを待つという形式です。特に、企業規模が小さく、知名度の低い企業に有効な手法です。学生のアピールをきっかけに、潜在的な優秀人材にアプローチできるというメリットがあります。
リファラル採用
社員による紹介で人材を獲得するリファラル採用は、社員が自社の文化や業務を理解しているため、企業に合った人材を見つけやすいという利点があります。求職者にとっても、社員からの紹介は安心感につながり、入社後のミスマッチを減らす効果も期待できます。通常の採用チャネルでは出会えない優秀な人材の発掘に繋がる可能性も秘めています。
ソーシャルリクルーティング
X(旧Twitter)、Instagram、TikTokといったSNSを活用するソーシャルリクルーティングは、企業が直接人材にアプローチできる採用手法です。採用コストを抑えながら、広範な層にリーチできます。ただし、効果的な運用には継続的な努力が求められます。
ソーシャルリクルーティングは、SNSを通じた情報発信を通じて採用につなげる間接的な手法です。潜在的な求職者層や、従来の採用活動では接触できない層へのアプローチ、採用コストの削減に有効です。自社の魅力的なコンテンツや、学生が求める情報を発信することで、企業のブランドイメージを高め、SNS経由での応募を促進することが期待できます。
採用ミートアップ
企業と求職者が交流する採用ミートアップは、参加者と親睦を深め、企業との相性が良い人材に直接アプローチできるイベントです。面接とは異なり、リラックスした雰囲気の中で求職者の本音を聞き出すことができます。ダイレクトリクルーティングやソーシャルリクルーティングと組み合わせることで、積極的な求職活動を行っていない層へのアプローチにも効果を発揮します。
カジュアル面談
企業と学生が1対1で気楽に話すカジュアル面談は、選考とは異なり、相互理解を深めることを目的としています。学生はリラックスした状態で企業担当者と話せるため、より自然な姿を見ることができ、企業は学生の個性や適性を見極めやすくなります。これにより、入社後のミスマッチを減らすことが期待できます。
インターンシップの有効活用
インターンシップは、学生が実際の仕事を体験できる貴重な機会であり、企業と学生がお互いを深く理解するための有効な手段として重要視されています。単に言葉で説明するよりも、実際の業務を体験してもらうことで、企業の特色や企業文化をよりリアルに伝えることができます。さらに、長期にわたるインターンシップを実施することで、企業は自社にマッチする人材を見極め、入社前から育成することも可能です。インターンシップそのものは採用選考活動とは区別されるため、経団連が定める採用選考の解禁日よりも前に、優秀な学生と出会えるという利点もあります。
2025年卒業予定の学生を対象とした採用活動から、一定の要件を満たすインターンシップで得られた学生の情報を、採用選考活動に活用することが可能になりました*。これにより、インターンシップの重要性は飛躍的に高まり、採用選考の早期化がさらに加速すると考えられます。
出典:2023.12.8.2025年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方.https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou/pdf/r051208_siryou.pdf
採用ピッチ資料の効果的な活用
採用ピッチ資料とは、企業が自社の魅力を求職者に向けて集約したプレゼンテーション資料のことです。求職者が知りたい情報を的確に、かつコンパクトに伝えることができます。従来の説明会資料は事業内容の説明に偏りがちで、採用に関する情報が不足しているという課題がありましたが、採用ピッチ資料を活用することで、必要な情報を効率的に提供できます。近年では、ウェブサイト上で採用ピッチ資料を公開する企業も増えており、説明会などの場で直接情報を伝えるよりも、効率的な情報提供が可能になっています。企業の課題や悩みも率直に伝えることで、求職者との信頼関係を築くことにもつながるでしょう。
オウンドメディアの戦略的運用
採用オウンドメディアとは、企業が自社の採用に関する情報を発信する専用のウェブメディアです。早い段階から学生と接点を持ち、企業への興味や関心を高めるために効果的です。採用活動解禁後に慌てて採用活動を開始するのではなく、計画的にコンテンツを制作・発信し、学生との長期的な関係性を構築することを目指しましょう。採用情報だけでなく、社員インタビューなど、働く様子が伝わるコンテンツを充実させることで、企業の魅力を多角的にアピールできます。学生の共感を呼び、「この会社で働きたい」と思ってもらえる可能性が高まります。
職種別採用の導入
職種別採用とは、特定の職種ごとに採用活動を行う手法です。事務、営業、エンジニアなど、配属予定の職種を明確にして募集することで、それぞれの職種に特化した能力やスキルを持つ学生を採用しやすくなります。従来の新卒一括採用では、入社後の配属に不安を感じる学生も少なくありませんでした。しかし、職種別採用は、入社後のミスマッチを防ぎ、社員の定着率向上につながると期待されています。ただし、職種ごとの採用人数が限られるため、必要な人材を十分に確保できない場合もあります。そのため、職種別採用と並行して、幅広い職種に対応できる総合職採用も検討することが重要です。(記事6)
デジタル技術を駆使した新卒採用
近年の採用活動において、デジタル技術の活用が非常に重要視されています。特に、AI(人工知能)や詳細なデータ分析を活用した革新的なアプローチは、採用活動の効率化と成果向上に大きく貢献すると期待されています。
生成AIの活用
2025年の新卒採用市場では、生成AI技術の活用が特に注目を集めています。以下に示すように、多様な場面で生成AIの導入が進んでいます。生成AIを活用することで、担当者の先入観や主観による選考の偏りを抑制し、採用プロセス全体の効率化を実現できます。さらに、大量の応募データを迅速に分析し、将来性のある候補者を効率的に見つけ出すことが可能です。優秀な人材獲得競争が激化する現代において、生成AIを戦略的に導入することで、採用活動のスピードと質を飛躍的に向上させることができます。
- 応募書類の自動選考
- 面接における自動応答
- 候補者の能力評価
採用ツールの活用
採用ツールとは、採用活動を支援するために開発された様々なデジタルツールの総称です。応募者情報を一元管理するシステム(ATS)、オンライン面接ツール、企業の魅力を効果的に伝える採用サイトなど、その種類は多岐にわたります。これらの採用ツールを有効活用することで、採用業務を大幅に効率化できます。例えば、ATSを導入することで、応募者データの管理や書類選考プロセスを自動化することが可能です。オンライン面接ツールを利用すれば、遠方にいる候補者とも容易にコミュニケーションを取ることができます。採用ツールの活用は、単なる業務効率化にとどまらず、採用コストの削減にも貢献します。さらに、採用プロセス全体を可視化することにより、改善サイクル(PDCAサイクル)を効果的に回せるようになるという利点もあります。ツールの導入には初期費用が発生するものの、長期的な視点で見れば、採用の質と効率を向上させ、企業の成長に貢献するでしょう。自社の課題やニーズに合わせて、最適な採用ツールを選定することが重要です。
戦略的な新卒採用のポイント
最新の新卒採用トレンドを取り入れることは重要ですが、企業の文化や状況に合わない手法を無理に導入しても、期待した効果は得られない場合があります。トレンドを理解しつつ、以下のポイントを参考に、自社に最適な戦略を構築しましょう。
採用の方向性を明確にする
新卒採用戦略を策定する上で、まず自社の採用における根本的な考え方を明確にする必要があります。他社が実施しているからといって、それが自社に最適とは限りません。自社の進むべき方向を定めるために、具体的な「採用計画」を策定しましょう。この計画には、採用の目的、求める人物像、ターゲットとなる学生層、そして予算などを詳細に盛り込みます。この計画に基づき、自社の理念や文化に合致した採用手法を選択することが重要です。
新卒採用戦略の根幹は、採用活動を通じて何を達成したいのか、その目的を明確にすることにあります。目的が明確になれば、これまで行ってきた採用活動の各段階の重要度が見えてきます。その上で、目的に沿った活動に重点的にリソースを投入することで、より高い成果が期待できます。さらに、明確になった目的を効率的に達成するための、斬新な採用手法を開発することも可能になります。
採用期間とスケジュール
採用戦略を選ぶ際には、採用活動にかかる期間も考慮すべき重要な要素です。採用計画を立てる際に、おおよそのスケジュールを想定しておくことで、学生の状況や自社の都合に合わせた最適な手法を選びやすくなります。採用手法には、導入後すぐに効果が現れるものと、時間をかけて効果を高めていくものがあります。短期的な視点と長期的な視点の両方を持ちながら、戦略を組み立てていくことが大切です。
採用支援サービスの活用
自社の採用活動をより効果的に進めるために、採用支援サービスの利用を検討することも有効な手段です。採用の専門家によるサポートを受けることで、自社の負担を軽減しつつ、採用の質を高めることができます。採用戦略の立案段階から支援を受けることで、自社の方向性をより明確にし、最適な採用手法を選択できるでしょう。また、採用業務の一部を外部に委託することで、社内の採用担当者の負担を減らすことができます。特に新卒採用に特化したサービスも存在し、最新のトレンドに精通したプロフェッショナルのアドバイスを得ることで、効果的な採用活動を展開しやすくなります。
採用代行サービスとは、企業が行う採用活動に関する業務を、専門の代行会社に委託するサービスです。委託できる業務範囲は会社によって異なりますが、一般的には、母集団形成から始まり、選考、内定に至るまでの全工程、またはその一部を外部に委託することが可能です。
KPI設定と採用フローの最適化
新卒採用は、時間も労力もかかる複合的な活動であるため、KPI(重要業績評価指標)の設定が不可欠です。KPIとは、最終的な目標を達成するために、各段階で設定する数値目標であり、その達成度合いを評価し、管理するための指標です。KPIなどを活用し、既存の採用フローにおける課題を明確にしながら、面接官のトレーニングや応募者への迅速な対応など、採用チーム全体を組織的に改善することで、採用フロー全体の最適化を図ることができます。
まとめ
新卒採用は、時代の流れや学生の価値観に合わせて、常にアップデートが求められます。最新の動向を把握し、自社の状況を踏まえた上で、最適な戦略を立案し、実行していくことが、優秀な人材の確保と企業の発展に不可欠です。この記事が、皆様の新卒採用戦略策定の一助となれば幸いです。
よくある質問
Q1:新卒採用の選考時期が早まる傾向に、どのように対応すべきでしょうか?
インターンシップを早期に実施したり、大学との連携を密にしたり、オンライン説明会を開催するなど、学生と早期に接点を持つことが大切です。さらに、SNSを効果的に活用して情報発信することも有効な手段です。
Q2:内定辞退者を減らすためには、どのような対策が有効ですか?
内定者フォローを充実させることが重要です。具体的には、内定者懇親会を開催したり、メンター制度を導入したり、入社前の研修を実施するなど、内定者の不安を取り除き、企業への愛着を深めることが効果的です。
Q3:採用にかかるコストを抑える方法はありますか?
ソーシャルリクルーティングや社員紹介制度(リファラル採用)を積極的に活用することで、求人広告にかかる費用を削減できます。また、採用代行サービスを利用することで、採用業務を効率化し、人件費を削減することも可能です。


