
求人票の役割と作成のポイント:法令遵守から企業アピールまで
求人票は、企業が求める人材にアプローチするための重要なツールです。単なる募集要項に留まらず、法令遵守を徹底し、企業の魅力を最大限に伝える役割を担います。求職者にとって、求人票は企業を知る最初の窓口。だからこそ、正確な情報提供はもちろんのこと、応募意欲を高める戦略的な情報発信が不可欠です。本記事では、求人票の役割を深掘りし、効果的な求人票作成のためのポイントを解説します。
求人票とは?募集要項との違いと本質的な役割
企業の採用活動において、求人票は求職者に対して労働条件を明確に示す、非常に重要な書類です。求人票を通じて、企業は職業安定法などの法令に基づいた適切な採用活動を行い、求職者は安心して応募できる環境を得られます。「募集要項」という言葉もよく使われますが、求人票は原則として書面で提供される一方、募集要項はWebサイトやSNSなど、さまざまな形式で公開される求人情報全般を指します。したがって、求人票は募集要項の一形態と考えることができます。
求人票の主な役割は以下の3つです
- 法令遵守:労働条件を詳細に記載し、法令を遵守した公正な採用活動を実施します。
- 企業PR:企業の魅力を効果的に伝え、求職者の入社意欲を高めます。
- 連絡窓口:応募方法や問い合わせ先を明示し、求職者との円滑なコミュニケーションを促進します。
求人票を作成する際には、これらの役割を常に意識し、求職者にとって価値のある情報を提供することが重要です。特に、ハローワークの求人票は企業が自由に編集できる範囲が広いため、自社の労働環境や働きやすさを積極的にアピールすることが、応募者数の増加につながることが期待されます。
求人票・募集要項の種類:多様な媒体と職種に対応
求人票や募集要項は、求人の種類、主体、掲載媒体、募集職種などによって様々な種類が存在します。ここでは代表的なものとして、ハローワークの求人票、大学(学校)の求人票、企業独自の募集要項、専門職向けの募集要項、求人媒体が提供する求人票の5つをご紹介します。
- ハローワークの求人票:ハローワークに求人を掲載する際に必要で、労働条件が簡潔にまとめられており、パートタイム求人や障がい者採用に特化した求人も可能です。求人票は透明性が高く、応募者が簡単にアクセスできる点が特徴です。
- 大学(学校)の求人票:大学のキャリアセンターや就職課を通じて学生向けに公開され、OB・OGの採用実績や研修制度、キャリアパスに関する情報が豊富です。
- 求人企業の募集要項:企業が自社のWebサイトに直接掲載する情報で、「採用情報」や「キャリア採用」といった名称で見られます。企業文化や職場環境についても詳しく説明されることが一般的です。
- 専門職の募集要項:特定のスキルや資格を持つ人材を募集する際に用いられ、応募条件を詳細に記載することで採用後のミスマッチを防ぎます。たとえば、金融業界のシステム開発エンジニアには「金融業界でのシステム開発経験3年以上」といった具体的な要件が求められます。
- 求人媒体の求人票:転職サイトや人材紹介サービスに掲載され、視覚的に企業の魅力をアピールするために写真や動画を活用します。また、社員インタビューなどの独自コンテンツを掲載することで、求職者が入社後のイメージを具体的に掴みやすくなります。
求人票の必須記載事項:法律で定められた項目を遵守
求人票や募集要項には、法令によって必ず明示しなければならない項目が定められています。職業安定法をはじめとする関連法規を遵守し、以下の項目を漏れなく記載するようにしましょう。これらの項目は、求職者が応募企業を選ぶ上で非常に重要な判断材料となるため、正確かつ詳細に記載することが求められます。
以下は、すべての企業に共通する法定記載項目です。
- 業務内容:募集する職種の内容を具体的に明記します。営業職であれば、営業先(個人/法人)、商材(有形/無形)、営業スタイル(新規開拓/既存顧客への深耕)などを具体的に記載することで、求職者は自身のスキルや経験との適合性を判断しやすくなります。途中で、従事すべき業務の種類や範囲に変更があり得る場合も、記載しておく必要があります。
- 契約期間:正社員(無期雇用)か、契約社員などの有期雇用かを明確に記載します。契約社員の場合は、契約期間や契約更新の有無(通算契約期間、更新回数の上限)についても明記が必要です。
- 就業場所:採用後の勤務地を記載します。複数の事業所がある企業の場合は、転勤の可能性やその範囲についても明示することが重要です。
- 試用期間:試用期間の有無と、期間を記載します。試用期間を設ける場合は、その目的や条件についても具体的に説明する必要があります。
- 労働時間・残業時間:始業時間と終業時間、平均的な残業時間を記載します。フレックスタイム制を導入している場合は、その旨を記載することで応募を促進する効果が期待できます。
- 休憩時間・休日日数:休憩時間と年間休日数を記載します。完全週休2日制であるか、祝日が休みであるか、夏季休暇や年末年始休暇などの特別休暇があるかなど、詳細な情報を記載することが望ましいです。
- 賃金:基本給、諸手当、昇給制度、賞与(ボーナス)の有無、固定残業代の有無などを具体的に記載します。
- 加入保険:社会保険(厚生年金保険、健康保険、雇用保険、労災保険)の加入状況を記載します。
- 募集者の氏名・名称:求人を行っている企業名を正式名称で記載します。
- 雇用形態:正社員、契約社員、派遣社員、アルバイト・パートなど、雇用形態を明確に記載します。
また、裁量労働制や固定残業代(みなし残業代)を導入している場合は、追加で記載すべき項目が存在します。裁量労働制の場合は、労働時間としてみなされる時間数を明記し、固定残業代を支給する場合は、基本給と固定残業代の内訳、および固定残業時間を超過した場合の割増賃金の支払いについて明確に記載する必要があります。
求人票の禁止項目:差別につながる表現は絶対に使用しない
求人票や募集要項には、法令によって記載が禁止されている事項があります。以下のような差別につながる可能性のある内容は、絶対に記載しないように注意が必要です。
性別を限定・差別する内容:男女雇用機会均等法により、性別を限定する募集は禁止されています。限定までしていなくても、「女性歓迎」「男性活躍中」といった表現や、「男性には体力試験を実施します」といった性差を意識させる表現は避けるべきです。
- 性別を限定・差別する内容:男女雇用機会均等法により、性別を限定する募集は禁止されています。「女性歓迎」「男性活躍中」といった表現や、「男性には体力試験を実施します」といった性差を意識させる表現は避けるべきです。
- 年齢を不当に制限する内容:年齢制限は原則として禁止されています。ただし、定年年齢を上限とする場合や、労働基準法などの法令による制限による場合は例外として認められます。
- 身体的特徴で制限する内容:体力や容姿などを応募条件とすることはできません。例えば、トラックドライバーの募集で「視力〇〇以上の方」と記載することは、運転免許の取得要件で一定以上の視力が既に要求されており、「大型免許保有者」と記載すればよく、視力の表現をする必要がないため不適切です。
- 居住地域や出自を制限する内容:通勤時間や居住地を理由に応募を制限したり、特定の地域出身者のみを優遇するような記述は差別にあたります。「国籍不問」や「留学生歓迎」といった表現も、意図せず差別的な意味合いを含む可能性があるため余計な記載であり、避けるべきです。
- 事実と異なる内容:実際の残業時間よりも少ない時間をあえて記載したり、育児休業や介護休業の取得実績を実際よりも多く記載するなど、虚偽の情報提供は絶対に行ってはなりません。
- 誇大な内容:実際の内容よりも著しく良く見せようとする表現を用いてはなりません。例えば、取引先企業のロゴを掲載する際に、実際には取引のないグループ会社のロゴを使用することは不適切です。
求職者は求人情報をどこで見ている?重要視するポイントを解説
求職者にとって魅力的な求人情報を掲載するには、応募者が重視する点を把握することが不可欠です。求職者が注目する要素は様々ですが、一般的には以下の要素が重要視されています。
- 勤務地:個人の生活環境やライフスタイルに大きな影響を与えるため、特に重視されます。転勤の有無はさらに重視されています。
- 給与:生活水準やキャリアアップの目標達成に直結するため、重要な判断基準となります。
- 職種:自身のスキルや経験を活かせるか、キャリアプランと合致するかが判断のポイントです。
- 雇用形態:正社員、契約社員、派遣社員、アルバイトなど、自身のライフスタイルやキャリア目標に応じた雇用形態が選択されます。
- 労働条件:完全週休2日制や年間休日120日以上など、ワークライフバランスを重視する求職者にとって重要な要素です。
令和4年版の労働経済の分析によると、特に女性は勤務地や給与以外の労働条件を重視する傾向があることが示されています。また、男性や高年齢層の求職者は、自身の能力を発揮できる機会を重視する傾向があるとされています。求職者が仕事を選ぶ際には、仕事内容が最終的な決め手となることが多く、過去の経験を活かせるか、長く続けられるか、やりがいを感じられるかといった点が重視されます。
求人情報作成でよくある失敗とその対策
求人情報を作成する際に、企業が陥りがちな失敗例として、競合他社との差別化ができていない、自社で働くことの魅力が伝わっていない、といった点が挙げられます。これらの失敗を避け、求職者にとって魅力的な求人情報を作成するためには、以下の対策を講じることが重要です。
- 他社との差別化:給与や年間休日などの条件で差別化が難しい場合は、福利厚生や働きやすさをアピールします。例えば、有給取得率、研修制度、育児休業取得実績などを具体的に記載することで、働きやすい環境をアピールできます。
- 自社で働く魅力の発掘と伝達:自社の魅力を言葉で表現するのが難しい場合は、中途入社社員に魅力を語ってもらったり、採用コンサルタントに魅力的な表現を考えてもらったりするなどの方法があります。
求人情報で自社を効果的にアピールするポイント
求人情報のフォーマットが決まっているため、自社の魅力をアピールし、他社と差別化するのが難しいと感じるかもしれません。しかし、以下のポイントに注意することで、求職者に自社の魅力をしっかりと伝える求人情報を作成できます。
まず、3C分析(Company(自社)、Customer(顧客=求職者)、Competitor(競合))を活用して、自社の強みや魅力を明確に特定しましょう。次に、曖昧な表現を避け、求める人材像、業務内容、社内の雰囲気など、具体的な情報を記載することが重要です。さらに、単に労働条件を羅列するのではなく、求職者の心に響くストーリーを語ることで、求人内容のリアリティを高め、応募意欲を刺激することができます。例えば、将来のビジョンや現状の課題、必要な人材像などをストーリーとして伝えることが効果的です。
まとめ
求人情報は、企業が優秀な人材を獲得するための重要なツールです。この記事で解説した求人情報の役割、記載事項、作成のポイント、求職者の視点などを参考に、求職者にとって魅力的な求人情報を作成し、採用活動を成功に導いてください。求人情報作成は単なる事務作業ではなく、企業の魅力を伝え、優秀な人材を引き寄せるための戦略的な活動であることを認識し、積極的に取り組むことが重要です。
よくある質問
質問1:求人票と募集要項、何が違うの?
回答:企業が人材を募集する際に作成するのが求人票です。求人票には仕事内容や給与、勤務時間などの具体的な労働条件が詳しく書かれています。これに対し、募集要項は求人票に加えて、応募資格や選考プロセスなど、募集に関するあらゆる情報を指します。つまり、求人票は募集要項を構成する要素の一部と言えます。
質問2:求人票に絶対に必要な項目は何ですか?
回答:求人票には、仕事の内容(職種変更がある場合にはその変更の範囲を含む。)、契約期間(有期契約の場合は期間・更新回数の上限を含む。)、勤務地(転勤がある場合はその変更の範囲を含む。)、試用期間の有無と期間、労働時間、休憩時間、休日、給与、加入保険、募集企業名、雇用形態など、労働条件に関する重要な情報を明確に記載することが求められます。これらの項目は労働基準法や職業安定法に基づいており、求職者が応募するかどうかを決める上で非常に重要な要素となります。正確な記載が必要ですが、求人票は雇用契約書ではないため、すべての詳細を含む必要はありません。
質問3:求人票作成で気をつけることは?
求人票を作成する際は、労働基準法や雇用機会均等法、職業安定法などの関連法令を遵守し、求職者に誤解を与えるような表現は避ける必要があります。自社の魅力を最大限に伝えるためには、具体的な情報を盛り込み、求職者の心に響くようなストーリーを語ることが有効です。また、他の企業との違いを明確にするために、福利厚生や働きやすさなどの独自の強みを正確にアピールすることが重要です。誇大な表現や虚偽の情報は避けるようにしましょう。


