
新卒採用の課題:人手不足と早期選考・通年採用への対応
新卒採用市場は、空前の人手不足と早期選考・通年採用の普及により、企業にとって一層厳しい局面を迎えています。少子高齢化による労働人口の減少が深刻化する中、企業は優秀な人材の確保に躍起です。早期選考の加速化と通年採用の長期化という二つのトレンドは、従来の採用戦略の見直しを迫り、企業にはより戦略的かつ柔軟な対応が求められています。変化の激しい新卒採用の現状と、企業が直面する課題について掘り下げていきます。
新卒採用を取り巻く市場環境
新卒採用の状況は、企業側の深刻な人手不足と、早期選考や通年採用の普及によって、年々厳しさを増しています。厚生労働省のデータによれば、企業が感じる人手不足感は2009年から高まる一方であり、帝国データバンクの調査では、多くの企業が正社員の不足に悩んでいます。少子高齢化による労働人口の減少も、この傾向に拍車をかけています。早期選考は採用活動の前倒しを促し、通年採用は採用期間の長期化を招くため、企業は今まで以上に戦略的な採用活動を行う必要に迫られています。
出典:2024.10.帝国データバンク.人手不足に対する企業の動向調査(2024 年 10 月)
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20241113-laborshortage202410/
早期選考・通年採用の広がり
早期選考や通年採用の導入も、新卒採用市場に大きな変化をもたらしています。インターンシップ参加者やイベント参加者に対して、従来の就職活動ルールにとらわれず、早い段階で内定を出す企業が増加しており、特にベンチャー企業や外資系企業でその傾向が顕著です。通年採用は、留学経験者など従来のスケジュールに合わせることが難しい学生にもチャンスを提供し、内定辞退者の補充にも有効です。2021年卒で17.5%だった通年採用導入企業は、2025年卒では31.9%まで増加すると予想されています*。
出典:2020/2/26.就職みらい研究所.就職白書2020
https://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2020/06/hakusyo2020_01-48_up-1.pdf
2024/2/20.就職みらい研究所.就職白書2024
https://shushokumirai.recruit.co.jp/wp-content/uploads/2024/04/hakusho2024_0424-2.pdf
新卒採用における課題
新卒採用を成功させるためには、まず直面している課題を明確にし、その根本的な原因を突き止めることが不可欠です。多くの企業が共通して抱える課題として、十分な人数の応募者を集めることの難しさ(母集団形成の困難)、求めるスキルや特性を持つ人材の獲得競争の激化、内定を出した応募者の辞退率の高さ、そして採用活動に割ける人員や時間などのリソース不足などが挙げられます。これらの課題は、企業の規模や業種、採用戦略によってその現れ方が異なります。
1.母集団形成の壁:応募者数不足
多くの企業が直面するのが、十分な数の応募者を集めることの難しさです。特に、名の知れた大企業とは異なり、中小企業やまだ認知度の低い企業では、求人情報が埋もれてしまいがちです。目標とする採用人数を達成するためには、採用活動の最初のステップである母集団形成を確実に成功させる必要があります。
応募者が集まらない要因としては、企業自体の認知度の低さ、求人情報の魅力不足、効果的な採用チャネルの選定ミスなどが考えられます。中小企業では、大企業に比べて情報発信力やブランドイメージが弱いことが多く、学生へのアピールが難しい場合があります。さらに、求人情報が企業の魅力を伝えきれていない場合や、学生が利用する媒体と企業の求人情報が一致していない場合も、応募者数の減少につながります。
2.求める人材の獲得の難しさ:ターゲット層へのリーチ不足
十分な数の応募者を集められたとしても、その中に自社が本当に求める人材が含まれていなければ、採用活動は成功とは言えません。採用したい人材にアプローチできないという問題は、多くの企業が抱える共通の課題です。求める人物像に効果的に訴求するには、自社の求人情報がどのように学生に届いているかを分析する必要があります。
求める学生からの応募がない原因としては、採用要件の曖昧さ、利用する採用チャネルのミスマッチ、企業文化に対する誤解などが考えられます。企業が求める人物像が明確に定義されていない場合、学生は企業に魅力を感じにくく、応募を躊躇してしまうことがあります。また、企業文化が学生に正しく伝わっていない場合、入社後のミスマッチに繋がりやすくなります。
3.応募者側の辞退:選考および内定辞退の防止
選考期間中の辞退や、内定承諾後の辞退も、新卒採用における大きな課題です。これらは応募者側の事情に左右されることが多いため、完全に防ぐことは困難ですが、企業側の対策によって辞退率を低減させることは可能です。
選考辞退の背景には、選考プロセスの長期化、企業からのコミュニケーション不足、他社からの内定取得などが考えられます。選考期間が長引くと、学生は他の企業への関心を抱きやすくなり、辞退につながる可能性があります。また、企業からの連絡が滞ったり、選考過程が不透明である場合も、学生の不安を煽り、辞退を招くことがあります。
内定辞退の要因としては、より魅力的な他社からの内定、給与や福利厚生などの待遇への不満、企業文化への懸念などが挙げられます。特に複数の企業から内定を得た学生は、より自分に合った企業を選択する傾向があり、待遇、企業文化などを比較検討した上で、最終的な意思決定を行います。
4.採用活動におけるリソース不足:時間、予算、人員の確保
採用コストの制約、採用担当者の不足、社内における採用ノウハウの不足といったリソース不足も、新卒採用における大きな課題です。これらの問題は、特に中小企業において顕著に見られます。十分な採用予算を確保できない場合、求人広告の掲載媒体数や広告のサイズが競合他社に劣り、応募者数の減少を招く可能性があります。
採用担当者の人員不足は、応募者への対応の遅れを招き、優秀な人材の獲得機会を逃す原因となります。さらに、社内に十分な採用ノウハウがない場合、母集団形成の手法から、ターゲット人材の選考基準、内定・入社後のフォローまで、あらゆる過程で機会損失が生じる可能性があります。
新卒採用における課題と解決策
新卒採用で直面する様々な問題点を克服するには、それぞれの問題に焦点を当てた対策が不可欠です。ここでは、母集団形成、求める人材の獲得、応募者の辞退防止、社内体制の整備という主要な4つの課題に対し、具体的な解決策を詳しく解説します。
母集団形成の改善策
十分な数の応募者を集められない場合、応募者数を増やすための対策を講じる必要があります。求人情報の見直しと採用経路の再検討が、そのための効果的な手段となります。
1.求人情報の見直し:企業の魅力を明確に伝える
求人広告、採用情報の発信、SNS、ブログなどで公開している情報を再評価し、企業の魅力を効果的に伝えることが重要です。単に情報を並べるのではなく、競合他社との違いを明確にし、自社が魅力的な職場であることをアピールしましょう。特に、働きがいやスキルアップを重視する求職者が増えているため、研修制度や福利厚生などの待遇を具体的に記載することが不可欠です。さらに、年齢の近い社員のインタビューや職場の雰囲気を伝えることで、求職者が入社後のイメージを描きやすくなります。
2.採用経路の再検討:多様な学生にアプローチする
大手求人サイトだけでなく、特定の業界や職種に特化した求人サイト、人材紹介サービス、合同説明会、大学主催のイベントなど、多岐にわたる採用経路を活用しましょう。ダイレクトリクルーティングやソーシャルリクルーティング、採用広報なども、新しい採用手法として注目されています。自社がターゲットとする学生層に適した経路を選び、効果的なアプローチを行いましょう。
学生に直接働きかけられる経路を持つことも有効です。ダイレクトリクルーティングは、企業側から学生にアプローチする採用手法であり、自社の魅力を直接伝え、興味を持ってもらうことができます。SNS戦略も、企業認知度を高める上で効果的です。YouTube、X(旧Twitter)、Instagramなどの無料SNSを有効活用し、企業の文化や雰囲気を発信することで、学生の関心を惹きつけましょう。
求める人材獲得の解決策
求める人物像を的確に採用するには、採用ペルソナの設定と、評価のやり方・基準を統一することが大切です。
1.採用ペルソナの設定:求める人物像をはっきりさせる
企業が採用したい人物像を「ペルソナ」として具体的に設定します。年齢、性別、学歴、家族構成はもちろん、学生時代に頑張ったこと、就職活動で何を重視するかなど、詳しい情報を盛り込みましょう。ペルソナを明確にすることで、採用担当者の間で認識のずれを防ぎ、統一感のある選考ができます。
2.評価方法と評価基準の統一:選考の基準を明確にする
評価項目を明確にし、評価シートを作ることで、選考基準を統一します。面接なら、応募者に質問する内容、見極めるポイント、評価の基準などを詳しく書き出しておきましょう。評価シートは、採用担当者だけでなく、配属予定の部署の管理職や最終面接を行う役員とも共有し、選考の全体を通して一貫した基準で判断することが重要です。
内定辞退対策の解決策
選考期間中の辞退が多い場合は、選考の流れを見直すのが効果的です。面接の回数を減らす、会社説明会と筆記試験を同じ日に実施するなど、採用活動の期間を短くすることを考えましょう。優秀な応募者に限って選考フローの一部を省略することで、特別感を演出し、企業の魅力を高めることができます。また、レスポンスを早くすることも大切です。応募者が選考期間を長く感じると、他の会社に気持ちが移ってしまう可能性があるため、素早い対応を心がけましょう。
内定承諾後の辞退や入社してすぐに辞めてしまう人が多い場合は、フォロー体制や応募者とのコミュニケーションを改善する必要があります。学生は内定が出てから入社するまでの間、企業に対して不安や心配を抱えているため、企業は学生へのフォローを充実させ、いつでも質問に答えたり相談に乗ったりできる体制を整えておく必要があります。電話、メール、SNS、社員との交流会、内定者懇親会などを通して、学生との接点を増やしましょう。気軽に話せる面談を導入することも有効です。リラックスした雰囲気で話せるカジュアル面談では、面接よりも本音を言いやすいため、応募者と企業の相互理解を深めることができます。
採用リソース不足の解決策
採用にかけられる費用、人員、専門知識が足りない場合は、他の部署からの協力を得て、明確な評価基準を設けた評価シートを作成し、面接官の能力向上のための研修を実施しましょう。また、採用管理システムやオンライン面接ツールを導入するなどして、業務効率化を図ることも有効です。会社の魅力を伝える採用動画を作成し、自社ウェブサイトで公開すれば、会社説明会にかかる手間を減らすことができます。社内に十分な採用ノウハウがない場合は、採用代行サービス(RPO)の利用も視野に入れましょう。
中小企業が新卒採用を成功させるポイント
中小企業が新卒採用で成果を上げるには、大企業とは異なる戦略が求められます。限られた資源の中で、いかに効果的な採用活動を展開するかが重要になります。ここでは、中小企業が新卒採用を成功させるための6つのポイントをご紹介します。
1.自ら学生にアプローチできるチャネルを持つ
大手人材紹介会社の求人サイトに掲載するだけでは、大手企業の情報に埋もれてしまい、学生の目に留まりにくくなります。ダイレクトリクルーティングやSNS戦略を駆使し、学生に直接働きかけられるルートを確保することが大切です。ダイレクトリクルーティングにおいては、学生へのスカウト送信や面接日程の調整などを代行するサービスを利用することで、人材や資金が限られている場合でも効果的な採用活動が実現可能です。SNSを活用する際は、YouTube、X(旧Twitter)、Instagramなどの無料プラットフォームを利用して、企業の魅力を積極的に発信しましょう。
2.採用要件やペルソナ設定、採用チャネルを見直す
目標とする学生層からの応募が少ない場合は、採用要件、理想とする人物像(ペルソナ設定)、利用している採用チャネルを見直す必要があります。既存の求人媒体だけでなく、ダイレクトリクルーティングが可能なアプリや、特定のスキルを持つ学生だけが利用できるサービスを活用することも有効な手段です。採用したい学生がどのような情報を求めているのかを分析し、YouTubeなどのSNSで関連情報を発信することも、学生の興味を引く上で非常に重要です。社内全体で共有し、ターゲットとする学生像を明確にすることで、より効果的なアプローチが可能になります。
3.採用経路の再検討とSNSの有効活用
採用コストの削減を目指すなら、従来の求人媒体に頼るだけでなく、SNSを積極的に活用しましょう。費用のかからないSNSで企業情報を発信したり、成果に応じて費用が発生するタイプの求人媒体を利用することで、コストパフォーマンスの高い採用活動が実現可能です。
4.採用活動全体の効率化
人員不足で新卒採用に十分な時間を割けない場合は、採用プロセスの一部を外部に委託したり、SPIなどの適性検査を活用するのが有効です。説明会や面接、書類選考などを代行してもらうことで、採用担当者の負担を軽減できます。また、適性検査を用いることで、応募者の能力や性格を客観的に評価し、効率的な選考を進めることができます。
5.学生との密なコミュニケーションと迅速な選考
選考中の辞退者や内定辞退者が多い場合は、学生とのコミュニケーションを密にし、「この会社で働きたい」と感じてもらえるような関係性を築きましょう。気軽に話せる面談の機会を設けたり、選考期間中のこまめな連絡を通じて、学生の不安を解消し、企業への理解を深めてもらうことが重要です。内定後も学生との連絡を継続することで、内定辞退を防ぐことができます。同期入社予定者同士が交流できるイベントを開催し、入社へのモチベーションを高めるのも効果的です。
6.入社前の企業理解促進
採用した新卒社員が早期に退職してしまう場合は、入社前に会社について深く知ってもらう機会を設けることが大切です。内定者向けのインターンシップを実施したり、配属予定部署の社員との交流会を設けることで、入社後のイメージとのずれを小さくし、早期離職を防ぐことができます。また、配属希望を尋ねる際には、「希望以外の部署への配属も可能か」を学生に確認しておくことも重要です。
まとめ
新卒採用の環境は常に変化しており、企業は自社の課題を正確に把握し、柔軟に対応していくことが求められます。この記事で紹介した課題と解決策、そして成功事例を参考に、自社に最適な戦略を構築し、新卒採用の成功を目指しましょう。優秀な人材の確保は、企業の成長にとって必要不可欠な要素です。積極的に採用活動に取り組み、未来を担う人材を育成していきましょう。
よくある質問
質問1:応募者が集まらない場合、まず何をすべきですか?
回答:まずは、自社の求人情報がターゲット層である学生にきちんと届いているか確認しましょう。求人広告の内容を見直したり、情報発信のチャネルを再検討したり、SNSを効果的に活用したりするなど、様々な角度からのアプローチを試すことが重要です。また、インターンシップや会社説明会を積極的に開催し、学生と直接コミュニケーションを取る機会を増やすことも有効な手段です。
質問2:内定辞退を減らすために、企業側はどのような対策を講じるべきでしょうか?
回答:内定者への丁寧なフォローアップを行い、企業と内定者の間で密なコミュニケーションを築くことが不可欠です。内定者向けの親睦会や研修などを実施し、内定者同士の繋がりを深めることも有効な手段です。さらに、内定者が抱える懸念や疑問を解消するために、定期的な個別面談や相談窓口を設けることも効果が期待できます。
質問3:採用にかかる費用を抑制するために、どのような対策が考えられますか?
回答:コストを抑える方法として、無料で利用できるSNSを活用した情報発信や、成果報酬型の求人サイトの利用が挙げられます。加えて、採用業務の一部を外部に委託したり、適性検査を導入することで、採用担当者の負担を軽減し、より効率的な採用活動を進めることが可能です。


