
最低賃金は毎年上がる?知っておくべき賃金改定の基礎知識
「最低賃金」という言葉、誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。これは、私たち労働者が会社から受け取る賃金の最低ラインを定めた、大切なルールです。最低賃金は、大企業はもちろん、中小企業で働く人も、パートやアルバイトで働く人も、外国人労働者も、雇用形態や会社の規模に関わらず、すべての労働者に適用されます。そして、この最低賃金は、原則として毎年見直され、改定されることになっています。この記事では、最低賃金がどのように決まり、どのように変わっていくのか、その基本的な知識をわかりやすく解説していきます。
最低賃金制度とは
最低賃金とは、企業が労働者に支払うべき賃金の最低基準額であり、時間単位で定められています。正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、外国人労働者など、全ての労働者に適用され、企業の規模や雇用形態による区別はありません。原則として最低賃金は毎年見直され、過去に引き下げられた例はありません。
最低賃金の2種類:地域別と特定(産業別)
最低賃金には、都道府県ごとに設定される「地域別最低賃金」と、特定の業種で働く人を対象とした「特定(産業別)最低賃金」の2つのタイプがあります。「特定(産業別)最低賃金」の対象となる業種は都道府県によって異なり、両方の最低賃金が適用される場合は、より高い金額が適用されます。地域別最低賃金は、地域の経済状況(物価水準や家賃相場など)を考慮し、地方最低賃金審議会での議論を経て、都道府県労働局長が決定します。一方、特定(産業別)最低賃金は、特定の産業に関わる労使双方からの要望があった場合に、厚生労働大臣または都道府県労働局長に申請し、改正が行われます。全国には2025年1月時点で223件の特定(産業別)最低賃金が存在しています*。
出典:2025/01/01.日本労働組合総連合会.労働・賃金・雇用 最低賃金 特定(産業別)最低賃金とは?. https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/chingin/saiteichingin_industry.html
最低賃金が適用される労働者
最低賃金は、雇用形態に関わらず、パート、アルバイト、契約社員など、その地域で働く全ての労働者に適用されます。派遣社員の場合は、派遣先の最低賃金が適用されるため、派遣元と異なる都道府県に派遣された際は、派遣先の地域別最低賃金または特定最低賃金が適用されます。最低賃金は「最低賃金法」という法律で規定されており、雇用主が最低賃金を下回る賃金を支払った場合、不足分の支払いはもちろん、法的な罰則も課せられます。もし賃金が最低賃金を満たしていない場合は、労働基準監督署に相談することが可能です。
最低賃金の適用が除外されるケース
例外として、労働能力が著しく低いなど、最低賃金を一律に適用することが雇用機会を減少させる可能性がある労働者については、事業主が都道府県労働局長の許可を得ることで、最低賃金の減額が認められる場合があります。具体的には、精神または身体に障害があり労働能力が著しく低い方、試用期間中の労働者、基礎的な技能を習得するための認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定められた者、軽易な業務に従事する者、断続的な労働に従事する者などが該当します。
最低賃金の対象となる賃金と対象外の賃金
最低賃金の計算基礎となるのは、基本給として毎月支払われる賃金です。しかし、全ての賃金が対象となるわけではありません。例えば、残業手当やボーナス、通勤手当などは最低賃金の計算には含まれません。具体的には、臨時に支払われる結婚祝い金などの手当、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賞与、法定労働時間を超える時間外労働に対する割増賃金、休日労働に対する手当、精勤手当や皆勤手当、通勤手当、家族手当、慶弔見舞金などは対象外となります。
最低賃金が守られていない場合の対処法と罰則
もし最低賃金が守られていない場合、企業は法的な責任を問われることになります。労働基準法第24条では、賃金の支払い方法について「通貨で、全額を労働者に、直接、毎月1回以上、一定期日を定めて」支払うことが義務付けられています。地域別最低賃金に違反した場合、最低賃金法第40条に基づき、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります*。特定最低賃金に違反した場合は、労働基準法第24条に基づき、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。違反が疑われる場合は、まず職場の責任者に相談し、改善が見られない場合は労働基準監督署に相談することを推奨します。最低賃金を下回る雇用契約は法律上無効であり、労働者は最低賃金額との差額を請求する権利があります。差額は、未払賃金になりますので、年3%の遅延利息が生じます(退職後は14.6%)。また、最低賃金の引き上げ前に適法だった賃金が、引き上げ後に最低賃金を下回った場合も、差額を請求することが可能です。
出典:最低賃金法.https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73053000&dataType=0&pageNo=1
2024年の最低賃金引き上げと影響
2024年10月には、最低賃金の全国加重平均が1,055円に引き上げられました。これは2023年から51円の引き上げとなり、過去最大の引き上げ幅となっています*。最低賃金の引き上げは、従業員の労働意欲向上や生産性向上に貢献する可能性があります。しかし、企業にとっては人件費が増加するという課題、労働者にとっても社会保険の適用枠組みが変わり手取額が減るなどの課題も生じることがあります。そのため、政府は最低賃金の引き上げが中小企業に与える影響を緩和するため、補助金などの支援策を実施しています。例えば、事業再構築補助金に最低賃金枠が設けられたり、雇用調整助成金の要件が緩和されたりしています。
出典:2024/07/25.厚生労働省 令和6年度地域別最低賃金額改定の目安について.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33423.html
地域別最低賃金の格差と課題
日本国内では、最低賃金が地域ごとに異なって設定されています。これは、イギリスやフランスのように全国一律の最低賃金を採用している国とは対照的です。地域間では200円を超える差が見られることもあり、この格差が地方の過疎化を助長しているという意見も存在します。本来、最低賃金は国民の生活水準を支える役割を果たすべきですが、地域間の不均衡や国際的な水準と比較すると、改善の余地があると言えるでしょう。労働力不足が深刻化する状況下で、サービスの質を維持するためにも、雇用者と被雇用者が互いに利益を得られる関係を築けるよう、最低賃金に関する議論は今後も重要となるでしょう。
企業が最低賃金引き上げに対して実施できる対策
最低賃金の引き上げに直面した企業は、様々な対策を検討する必要があります。例えば、業務プロセスを見直し、生産性を向上させることや、従業員の能力開発を支援し、スキルアップを図ることが挙げられます。また、ITツールを導入することで、業務効率を高めることも有効です。さらに、従業員のモチベーションを向上させるために、福利厚生を充実させたり、キャリアアップの機会を提供することも重要です。最低賃金の引き上げは、企業にとってコスト増加の要因となりますが、同時に経営体質の改善や従業員の満足度向上につながるチャンスと捉えることもできます。
最低賃金引き上げによる経済効果
最低賃金の引き上げは、労働者の収入増加を通じて消費を刺激し、経済全体の活性化を促す可能性があります。特に、低所得層の収入が増加することで、消費意欲が高まり、より大きな経済効果が期待できます。しかしながら、最低賃金の引き上げが急速に進むと、企業の雇用抑制や価格への転嫁を招き、結果として経済を悪化させるリスクも存在します。そのため、政府は最低賃金の引き上げと並行して、企業の生産性向上や経営改善を支援する政策を推進することが不可欠です。
まとめ
最低賃金は、働く人々の生活を保障する上で不可欠な制度です。2024年10月には大幅な引き上げが行われ、労働者の生活水準の向上や経済の活性化への期待が高まっています。企業は、最低賃金の引き上げに対応するため、生産性向上や経営の効率化に努める必要があります。また、政府は企業の負担を軽減するための支援策を拡充し、最低賃金の引き上げがスムーズに進むよう、環境整備を進めることが重要です。もし、あなたの職場が最低賃金を遵守していない場合は、適切な機関への相談を検討してください。
よくある質問
最低賃金は毎年必ず上昇するのでしょうか?
最低賃金は、通常、年次で見直しが行われ、引き上げられる傾向にあります。しかし、経済情勢によっては、改定されず現状維持となることもあり得ます。過去には、最低賃金が減額された例はありません。
パートやアルバイトにも最低賃金は適用されますか?
もちろんです。パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣スタッフといった、雇用形態の種類に関わらず、すべての労働者に対して最低賃金制度が適用されます。
もし最低賃金が守られていない場合は、どうすれば良いのでしょうか?
まずは、勤務先の責任者や人事部に相談し、状況の改善を求めてください。それでも解決しない場合は、労働基準監督署への相談を検討しましょう。最低賃金を下回る賃金の支払いは法律違反であり、未払い分の賃金を請求する権利があります。





