
賃上げはいつから?時期と影響、今後の見通しを徹底解説
「賃上げ」のニュースを耳にする機会が増えましたが、実際にいつから適用されるのか、そして私たちの生活にどのような影響があるのか、詳しく知りたいと思いませんか? 本記事では、賃上げの時期、企業や経済への影響、そして今後の見通しについて、徹底的に解説します。春闘の結果を踏まえ、具体的なデータや専門家の分析を交えながら、賃上げに関する疑問を解消し、より深く理解するための情報をお届けします。
春闘とは:日本の労働運動
春闘(春季生活闘争)は、日本独自の労働運動であり、毎年春に集中的に展開されます。労働組合が中心となり、企業に対して賃金の引き上げや労働環境の改善を求め、交渉を行うことが特徴です。この運動は、労働者の権利を守り、生活水準を高めることを目指しており、日本の労働市場における労働条件の基準を定める上で、非常に重要な役割を果たしています。2023年の春闘では、物価高騰への対応やコロナ禍からの経済回復、労働力不足への対策などが主な課題となり、早期決着と満額回答が相次ぎました。
春闘の目的:賃上げと労働条件の改善
春闘の主な目標は、労働者の給与を引き上げ、労働環境を改善し、生活水準を向上させることです。具体的には、基本給の増額、労働時間の短縮、安全な職場環境の確保などが挙げられます。さらに、社会的公平性や公正さを促進するため、性別や雇用形態に関係なく平等な扱いを求める動きも重要です。労働者不足が深刻化している現在、賃金レベルの向上や人事制度の見直しは、企業の経営戦略においてますます重要性を増しています。
ベア(ベースアップ)とは
ベア(ベースアップ)とは、基本給そのものを引き上げることを意味し、春闘における中心的なテーマの一つです。従業員の年齢や勤続年数、能力などに関わらず、すべての従業員の基本給を一律に引き上げることが特徴です。物価の上昇が続く状況下では、労働者の実質的な賃金を維持・向上させるために、ベースアップは特に重要な要求となります。
春闘を行う労働組合の種類
春闘に関与する労働組合は、大きく「全国組織」「産業別組織」「企業内組合」の3つに分けられます。これらの組織はそれぞれ異なる役割を担い、協力しながら労働者の権利を擁護するための活動を展開しています。
全国的な労働組合組織
日本全国の労働者を代表する全国的な労働組合組織は、その影響力の大きさで知られています。様々な産業や企業に所属する労働者の利益を擁護し、政府や経済界との交渉において重要な役割を果たします。主要な組織としては、連合や全労連などが挙げられ、数多くの産業別組織や企業別労働組合がこれらの組織に加盟しています。
産業別組織
特定の産業に特化した労働組合である産業別組織は、全国的な労働組合組織の下に組織されています。これらの組織は、各産業特有の労働環境や問題に焦点を当て、労働者の権利保護に尽力します。自動車、電機、教育など、各産業に特有の労働組合が存在し、それぞれの分野における専門的な知識を活かして、労働問題への効果的な交渉を行います。
企業別労働組合
特定の企業に雇用される労働者によって組織される企業別労働組合は、産業別組織の傘下にある場合と、独立して活動する場合があります。これらの組合は、企業内の労働条件や課題に特化し、企業に雇用される人々の権利を守るために活動します。企業の経営層との直接的な交渉を通じて、賃金の向上、労働時間の短縮、福利厚生の充実などを目指します。また、企業の経営状況や業績を踏まえ、柔軟な交渉を行うことが可能です。
春闘の主な要求内容
春闘における交渉で中心となる要求は、多岐にわたりますが、最も重要なのは賃上げの要求です。それ以外にも、労働時間、育児・介護に関する支援、雇用形態の見直し、企業規模による格差の是正、多様性の尊重、ワークライフバランスの改善など、労働者の生活に関わる様々な側面からの改善が求められます。2023年の春闘では、労働組合の要求を上回る回答が少なくなく、賃金水準の改善や人事制度の見直しが、経営戦略において不可欠な要素として認識されるようになりました。
賃金(定期昇給・基本給)の上昇
春闘における重要な要求の一つが賃金の上昇、すなわち賃上げです。中でも基本給の引き上げ(ベースアップ)は、昨今の物価高騰や経済情勢の変化を鑑み、労働者の購買力を維持・向上させるために不可欠な要素として強く求められています。定期昇給は、主に年齢や勤続年数に応じて賃金が上昇する仕組みであり、年功序列制度を採用している企業においては春闘の主要な議題となります。しかし、近年では年功序列制度を見直し、個々の能力や成果を重視する企業が増加傾向にあり、成果主義型の賃金制度へと移行する動きも見られます。
出典: 厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析」
.https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/23/2-1.html
労働時間短縮と長時間労働の是正
労働時間短縮と長時間労働の是正は、労働者の健康と福祉を守るための重要な要求です。日本においては、過重労働による健康被害が深刻な社会問題となっており、その是正が急務となっています。労働基準法で定められた労働時間(1日8時間、週40時間)を超える時間外労働が常態化している企業も存在します。労働時間の短縮は、労働者のストレス軽減やワークライフバランスの改善に繋がり、結果として生産性の向上をもたらし、企業の持続的な成長にも貢献します。さらに、労働者が自由な時間を有効活用することで、消費活動の活性化にも繋がると期待されています。
育児・介護支援制度の充実
育児や介護に携わる労働者への支援強化は、春闘における重要な要求事項の一つです。具体的には、育児休業や介護休業制度の拡充、柔軟な働き方を可能にする勤務体系の導入などが求められています。2022年4月からは、育児・介護休業法が段階的に改正・施行され、男女ともに育児と仕事の両立を支援するため、産後パパ育休制度の取得を促進する雇用環境の整備が義務付けられました。高齢化が進む現代社会において、介護に関する支援の充実も喫緊の課題です。育児・介護支援制度の拡充は、労働者が安心して家庭と仕事の両立を実現し、特に女性労働者の職場復帰やキャリア継続を後押しすることに繋がります。
非正規雇用の待遇改善
非正規雇用の待遇改善は、雇用の公平性と安定化を目指すための重要な要求です。正社員と非正規雇用の従業員との間に存在する賃金格差の是正、福利厚生の充実、キャリアアップの機会提供などが主な焦点となります。2021年4月には、パートタイム・有期雇用労働法が全面施行され、正社員とパートタイム労働者、有期雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消するための「同一労働同一賃金」原則が定められました。しかしながら、依然として非正規社員の待遇が正社員と比較して著しく低いケースも少なくありません。そのため、春闘においては、非正規社員の雇用の安定化とモチベーション向上に繋がる待遇改善が強く求められています。
大企業と中小企業の格差是正
経済全体の健全な発展のためには、大企業と中小企業の間に存在する格差を縮小することが重要です。日本においては、中小企業が企業全体の大部分を占め、多くの労働者がそこで働いていますが、賃金や労働環境において大企業との差が見られます。中小企業が賃上げに踏み切りにくい背景には、労働組合の組織率の低さや、人件費増加による利益圧迫、設備投資への影響、これらのコストについて価格転嫁が進まないことなどが考えられます。しかし、将来的な人手不足を見据えると、中小企業における賃上げは不可避と言えるでしょう。中小企業で働く人々の賃金水準を引き上げ、労働条件を改善することで、企業間の格差を是正し、経済の活性化を目指す必要があります。
ダイバーシティ・人権尊重・平等に関する事項
多様な人材が活躍できる職場環境を構築するためには、ダイバーシティの推進、人権の尊重、そして職場における平等の実現が不可欠です。性別、年齢、国籍、障がいの有無など、個人の属性に関わらず、全ての従業員が平等な機会を与えられ、その能力を最大限に発揮できるような環境が求められています。
そのほかワークライフバランス実現に関する事項
労働者が仕事と私生活を両立させ、充実した生活を送ることは、ワークライフバランスの実現に繋がります。そのためには、柔軟な働き方を可能にするフレックスタイム制度や、場所にとらわれない在宅勤務制度の導入、そして有給休暇の取得を促進する取り組みなどが重要です。労働者が心身ともに健康で、充実した生活を送ることは、結果として企業の生産性向上にも貢献すると考えられています。
春闘における付帯要求の具体例
春闘においては、賃上げや労働時間短縮といった主要な要求に加え、労働環境の改善や従業員の福利厚生に関する様々な付帯要求が提示されます。具体的な例としては、ハラスメント対策のためのマニュアル作成や研修の実施、健康診断における二次検診費用の補助などが挙げられます。これらの付帯要求は、労働者の職場環境の質を高め、仕事へのモチベーションを向上させることを目的としています。
春闘のスケジュールと大まかな流れ
春闘は、新しい会計年度が始まる4月を目途に、政府からの働きかけに始まり、労働組合による方針決定、そして企業との労使間交渉を経て合意に至るまで、数か月かけて進められる一連の活動です。
政府による経済界への賃上げ働きかけ
春闘が本格的に始まる前に、政府は経済界の代表である経団連に対し、賃上げを求めることがあります。これは、経済の活性化や消費を促すことを目的としており、労働市場全体の賃金水準に影響を及ぼすことが期待されています。
12月頃:労働組合が結集し、春闘の方針を定める
春闘が本格的にスタートするにあたり、連合や全労連といった全国規模の労働組合組織が集まり、12月から1月頃にかけて、その年の春闘における基本的な方針を決定します。この全体方針では、賃上げの目標となる割合や、その他要求項目が設定され、各産業別の組織が具体的な要求水準を決定する際の基準となります。
1月頃:企業別労働組合による要求内容の決定
各企業の労働組合は、それぞれの産業における労働組合の上部組織の方針を参考にしつつ、自社の経営状況や従業員の声を反映させた要求内容を決定します。会社側がどの程度の条件であれば受け入れ可能かを慎重に見極め、具体的な要求としてまとめ上げます。この段階で、各企業の実情に合わせた交渉戦略が具体的に策定されます。
2~3月頃:企業との労使交渉・妥結
いよいよ、企業と労働組合の間で労使交渉が本格的に行われます。労働組合が事前に決定した要求内容に基づき、集中的な議論が重ねられ、最終的な妥結を目指します。妥結内容は、賃上げ率だけでなく、労働時間や休暇などの労働条件の改善、その他福利厚生に関する要求の実現度など、多岐にわたります。双方が合意に達した場合、その内容を文書にまとめ、協定を締結し、新たな労働条件として適用されることになります。
春闘に関わる労働組合法
労働組合法は、労働者が団結し、使用者と団体交渉を行い、争議行為を行う権利を保障する法律であり、労働組合の活動を保護します。この法律によって、労働者は使用者に対し、対等な立場で交渉に臨むことができ、賃金や労働時間などの労働条件の改善、不当な解雇からの保護といった権利擁護を目指すことが可能となります。春闘において労働組合法は、労働者の権利を守り、公正な交渉を実現するための重要な法的根拠となります。
春闘による賃上げの成功事例
2023年の春闘では、大手企業を中心に、過去30年間で最も高い水準の賃上げが実現しました。例えば、トヨタ自動車は、労働組合からの要求に対し、一時金を含めて満額回答で合意しました。パナソニックホールディングスも、労働組合の要求水準を満たす賃金改善を受け入れました。さらに、ABCマートでは、パートタイム労働者が労働組合を結成し、会社側と団体交渉を行った結果、基本時給が平均6%上昇しました。これらの事例は、労働組合の交渉力と、労働者一人ひとりの団結が、賃上げを成功させる上で不可欠であることを示しています。
出典:2024/6/1 .労働政策研究・研修機構「賃上げ率が1991年以来、33年ぶりとなる5%台に到達(春闘取材)」
.https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2024/06/top_01.html
出典: .内閣府「2024年度に入って以降の賃金の動向について」
.https://www5.cao.go.jp/keizai3/shihyo/2024/0806/1354.pdf
春闘に対応する企業側の注意点
春闘における企業側の留意点は、健全な労使関係を構築し、企業の持続的な成長を達成することです。特に春闘に初めて参加する際は、労働組合側の要求を詳細に把握し、企業の経営状況や将来の見通しを踏まえた上で、現実的かつ建設的な回答を行うことが重要です。
団体交渉を拒否してはいけない
労働組合法第7条2号において、労働組合からの団体交渉の申し入れに対し、使用者が「正当な理由」なく拒否することは不当労働行為と定められています。したがって、正当な理由がない限り、団体交渉を拒否することはできません。また、団体交渉に応じている場合でも、交渉の態度が誠実でない場合は「不誠実団交」とみなされ、不当労働行為となる可能性があります。団体交渉の申し入れがあった際は、誠実に対応することが求められます。ただし、企業はすべての「要求」に応じる義務があるわけではありません。要求を拒否する際は、その理由を丁寧に説明することが重要です。交渉の結果として要求を拒否した場合でも、それ自体が不誠実団交と判断されるわけではありません。
経営状況を透明化する
企業は、経営状況に関する情報を労働組合に対して透明性高く提供することが重要です。経済状況や業績に応じた合理的な提案を行うことで、より現実的な交渉が可能になります。企業の経営状況を可能な範囲で詳細に説明し、労働組合との間で共通の認識を形成することで、建設的な議論を進めることができます。
長期的視点を維持する
春闘における交渉は、短期的な利益だけでなく、長期的な企業の成長と従業員の福利厚生を考慮したものであるべきです。特に経営余力の少ない企業が過度な賃上げを実施した場合、企業全体の体力が低下し、競争力低下や雇用不安につながる可能性があり、最終的には労働者全体に不利益をもたらす可能性があります。企業は、春闘をはじめとする賃上げ交渉を通じて労働者との良好な関係を構築し、企業の持続可能な成長を目指すべきです。
まとめ
春闘は、労働者にとって給与や労働環境の向上を企業に求める上で非常に重要な機会であり、企業側にとっても従業員との良好な関係を構築し、将来的な成長を目指すための大切なプロセスです。労働組合と企業がお互いの立場を尊重し、建設的な話し合いを通じて合意に達することが、経済全体の発展にも貢献します。今後の春闘においても、労働者と企業が協力し、より良い労働環境と経済状況を実現していくことが望まれます。
よくある質問
質問1:春闘は具体的にいつ頃からいつ頃まで実施されるのでしょうか?
回答1:春闘は通常、2月から3月にかけて実施されます。前年の12月頃に労働組合が交渉の方針を決定し、年明けの1月から企業との交渉が本格的に開始され、3月中旬頃に大手企業が回答を出すのが一般的です。中小企業からの回答はそれよりも遅れることが多いですが、通常は3月末までには一連の交渉が終了します。
質問2:春闘で交渉されるのは賃上げだけですか?他にどのような要求があるのでしょうか?
回答2:いいえ、賃上げだけではありません。労働時間削減、育児・介護支援制度の拡充、非正規雇用者の待遇改善、大企業と中小企業の待遇格差是正、多様性の尊重や人権保護、仕事とプライベートのバランス(ワークライフバランス)の実現なども重要な交渉項目として挙げられます。
質問3:会社が春闘での交渉を拒んだら、どうなるのでしょうか?
回答3:労働組合法という法律があり、合理的な理由がないのに団体交渉を拒否することは、不当な行為と判断されます。会社側は、労働組合から団体交渉を求められた場合、真摯に対応しなければなりません。説明を尽くしても議論が平行線になり、結論が出る見込みがなくなってしまった場合などは、交渉の打切りもやむなしとされることもあります。





