
有給休暇の計画的付与:制度概要と導入メリット
働き方改革が推進される現代において、有給休暇の取得は従業員の権利として重要視されています。しかし、実際には「なかなか取得しづらい」「業務が滞ってしまう」といった課題も。そこで注目されるのが、有給休暇の計画的付与制度です。これは、労使協定に基づき、企業が計画的に有給休暇の取得日を割り振る制度。従業員の休暇取得を促進しつつ、企業の計画的な業務運営をサポートします。本記事では、制度の概要から導入のメリットまでを詳しく解説します。
年次有給休暇の計画付与制度とは
労働基準法で定められている年次有給休暇において、企業が、付与日数から5日を超過する日数について、労使間の合意に基づき、計画的に休暇日を割り振ることを可能とするのが、年次有給休暇の計画付与制度です。この制度の主な目的は、従業員の休暇取得を促進するとともに、企業における計画的な業務運営をサポートすることにあります。
出典: 厚生労働省.年次有給休暇の計画的付与制度
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kinrou/dl/101216_01e.pdf
計画付与制度導入のメリット
計画付与制度の導入は、企業と従業員双方にとって多岐にわたる利点をもたらします。企業側としては、従業員の有給取得率の向上を通じた企業イメージの向上、計画的な人員配置による業務効率の改善、そして労働関連法規の遵守によるリスクの低減などが期待できます。一方、従業員側にとっては、休暇取得に対する心理的な障壁の軽減、長期休暇を取得する機会の増加、ワークライフバランスの改善といった効果が期待できます。
計画付与の対象日数
計画付与の対象となる日数は、その年に付与される年次有給休暇の日数から5日を差し引いた残りの日数です。たとえば、ある従業員に年間10日の年次有給休暇が付与された場合、計画付与の対象となるのは5日となります。前年度からの繰越日数がある場合は、繰り越し分を合算した付与日数から5日を差し引いた日数が計画付与の対象となります。
例1:年次有給休暇の付与日数が10日の労働者の場合
計画的に付与できる日数は、10日 - 5日 = 5日となります。
例2:年間有給休暇が20日付与される従業員の場合
計画的な付与ができる日数は、20日から5日を差し引いた15日となります。
計画的付与の進め方:会社の状況に応じた柔軟な対応
計画的に有給を付与する方法は、会社の規模、業種、仕事内容に合わせて選択可能です。主な方法として、全員一斉に付与する方法、交代で付与する方法、個別に付与する方法の3つが挙げられます。
一斉付与方式
一斉付与方式とは、会社または事業所全体で休業日を定め、その日に有給休暇を一斉に取得する方法です。年末年始、夏期休暇、大型連休など、長期の休みと組み合わせて導入されるケースが多く見られます。この方式は、製造業のように、従業員全員が同時に休みやすい事業所に向いています。
一斉付与方式の利点
従業員が全員同時に休暇を取得するため、連帯感が生まれる
長期の休暇を設定しやすい
仕事の引き継ぎが不要になるため、効率が良い
シフト制付与方式
シフト制付与方式とは、従業員をいくつかのグループに分け、グループごとに順番に有給休暇を取得していく方法です。24時間稼働の事業所や、繁忙期と閑散期が明確な事業所など、従業員が一斉に休暇を取得することが難しい場合に有効です。
シフト制付与方式の利点
業務への支障を最小限に食い止められる
従業員の休暇希望を調整しやすい
特定の従業員への負担集中を防げる
個別指定付与方式
個別指定付与方式とは、従業員それぞれが休暇の計画を立て、会社がそれを承認することであらかじめ有給休暇の取得日を確定させる方法です。従業員の都合に合わせて柔軟に休暇を取得できるため、ワークライフバランスを重視する企業に適しています。記念日休暇などの独自の休暇制度と組み合わせて導入されることもあります。
個別指定付与方式の利点
従業員の満足度向上につながる
多様な働き方を実現できる
従業員の主体性を尊重できる
計画的付与導入の手順
年次有給休暇の計画的付与制度を導入するには、まず就業規則にその内容を記載し、さらに労使協定を締結することが求められます。これらの手続きをきちんと行うことで、制度が円滑に運用され、従業員との間で不要な摩擦が生じるのを防ぐことができます。
就業規則への明記
計画的付与制度を導入するにあたり、その旨を就業規則に明記することは非常に重要です。これにより、従業員全体に制度の存在を明確に伝え、制度に対する理解を深めることができます。
就業規則への記載例
「会社は、従業員代表との書面による合意に基づき、年次有給休暇のうち、法定の5日を超える日数について、事前に時期を指定して取得させることができるものとする。」
労使協定の締結
計画的付与を実行するためには、従業員の過半数で構成される労働組合、または従業員の過半数を代表する者との間で、書面による労使協定を締結する必要があります。この労使協定には、制度の対象となる従業員の範囲、計画的付与の対象となる日数、具体的な実施方法、そして計画的付与日の変更に関する取り決めなどを具体的に定める必要があります。なお、この労使協定を労働基準監督署に届け出る必要はありません。
労使協定で定める重要なポイント
対象範囲:計画的付与の対象となる従業員
対象日数:計画的付与の対象となる年次有給休暇の日数
実施方法:全員一斉、シフト制、個別指定など、具体的な実施方法
計画日の変更:やむを得ず変更が必要な場合の条件と手続き
計画的付与を導入する際の留意点
計画的付与制度を導入するにあたっては、いくつかの注意すべき点があります。これらの点に留意することで、制度をスムーズに運用し、従業員の不満をできる限り少なくすることができます。
従業員の意向を尊重する
計画的付与制度を導入する際は、従業員の意見を十分に聞き、制度設計に反映させることが大切です。従業員が納得できる制度を構築することで、制度のスムーズな受け入れを促し、より効果的に運用することができます。
有給休暇が少ない従業員への配慮
年次有給休暇の付与日数が少ない従業員や、入社して間もない従業員など、計画的付与を適用することが難しい従業員に対しては、特別休暇の付与するなどの配慮が求められます。計画的付与によって全社一斉休日にする場合は、休業補償を行うなどの対応も考えられます。
計画的付与日の変更:原則として認められず
計画的付与によって特定された有給取得日は、基本的に企業と従業員の双方において変更は難しいとされています。ただし、避けられない事情が生じた際は、労使間での協議を経て両者が合意すれば変更可能です。計画的付与日の変更を行う際は、労使協定の再締結が求められるケースもあります。
退職予定者への配慮
計画的付与日が到来する前に退職する従業員については、計画的付与の対象とはなりません。残っている有給休暇については、従業員の判断で有給休暇を取得することになります。従業員の意思を尊重し、状況に応じた柔軟な対応が求められます。
計画的付与の導入例
計画的付与制度は多くの企業で導入され、その効果を発揮しています。ここでは、いくつかの導入事例をご紹介します。
事例1:A製造株式会社
A製造株式会社では、夏季休暇と年末年始休暇に計画的付与を取り入れ、長期休暇を実現しています。これにより、従業員がリフレッシュする機会が生まれ、結果として生産性の向上に繋がっています。
事例2:B社(サービス業)
サービス業を営むB社では、従業員が順番に有給休暇を取得するシフト制付与方式を採用しています。この方法により、業務への支障を最小限に抑えつつ、従業員のワークライフバランスの向上を実現しています。
事例3:C社(IT企業)
IT企業のC社では、従業員が各自の希望で自由に有給休暇を取得できる個人別付与方式を導入しています。また、記念日休暇制度も設け、従業員の満足度を高める取り組みを行っています。
出典: 令和6年就労条件総合調査の概況 - 厚生労働省
.https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/24/dl/gaikyou.pdf
計画的付与された有給休暇を拒否したい場合
年次有給休暇の計画的付与は、労使間の合意(労使協定)に基づいて実施されるため、基本的に従業員は拒否できません。しかし、労使協定の内容が妥当でない場合や、従業員にやむを得ない事情がある場合は、拒否が認められる可能性もあります。従業員から拒否の意思表示があった場合は、企業はその理由を詳細に確認し、誠実な対応を心がけることが重要です。必要に応じて、弁護士や社会保険労務士などの専門家への相談も検討しましょう。
参考判例:三菱重工業長崎造船所計画年休事件
この判例では、会社が労働者の過半数で構成される労働組合との間で締結した「計画的付与に関する労使協定」の効果は、当該事業所の全労働者に適用され、それを拘束することが著しく不合理となる特別な事情が認められない限り、協定に反対する労働組合の組合員も協定に拘束されるとの判断が示されました。
計画的付与を成功させるための秘訣
有給休暇の計画的付与制度を有効に機能させるには、以下に示す点が重要になります。
従業員への丁寧な情報提供:制度導入の背景、具体的な内容、利点と注意点などを詳しく伝え、従業員の理解と協力を促すことが不可欠です。
労働者と使用者間の綿密な話し合い:制度の導入や運用にあたっては、労働者側と使用者側で十分に話し合い、双方の合意を得ることが大切です。
柔軟な制度設計:従業員の意見を取り入れながら、各企業の状況やニーズに応じた柔軟な制度を構築することが重要です。
制度の定期的な検証:制度の運用状況を定期的に確認し、必要に応じて改善策を講じることが大切です。
まとめ
年次有給休暇の計画的付与制度は、従業員の有給取得を促進するとともに、企業側の計画的な業務遂行をサポートする有効な手段となります。制度導入を検討する際は、この記事でご紹介した内容を参考に、それぞれの企業の実情に合わせた最適な制度を構築し、従業員との良好なコミュニケーションを図りながら、スムーズな運用を目指しましょう。
よくある質問
質問1:計画的付与制度は、すべての企業が導入する必要があるのでしょうか?
いいえ、計画的付与制度の導入は必須ではありません。各企業の判断によって、任意に導入するかどうかを決定できます。
質問2:計画的付与の日程は、企業側が独断で決定しても問題ないのでしょうか?
いいえ、計画的付与の日程は、労働者と使用者間の合意、すなわち労使協定に基づいて決定される必要があります。企業が一方的に決定することは認められていません。
質問3:計画的付与日にどうしても業務都合で休めない場合は、どのように対応すれば良いでしょうか?
原則として、計画的付与日に出勤することは認められません。しかし、どうしても避けられない事情がある場合には、企業と話し合い、別の日に休暇を取得できるよう調整することが可能です。





